いくら神様が有名で立派でも、お店にいる人に魅力がなければがっかりするもの。強くたくましく父性で人間を守ってくださるのが神様なら、守役さんは母性そのもの。人に言えない悩みを抱えてお山する参拝者の話に耳を傾け、お詣りをやさしくサポートしてくださるのが守役さんです。
伏見稲荷大社は初詣の参拝者数が関西で例年1、2位と人気が高く、一年を通して多くの観光客が訪れます。 伏見稲荷の醍醐味はやはりお山めぐり。本殿の参拝だけで終えるのはもったいないとばかりに稲荷山の参道に沿って立ち並ぶ多くのお社に足を運ぶ参拝者が年々増えています。訪れる方々が増えると同時にトラブルも増えてしまうのも事実です。日本に限らず世界中の観光地で事故やトラブルが絶えない様子を報道で目にする機会も少なくはありませんね。
ここ伏見稲荷の稲荷山では、山といっても参道が整備されているため滑落や雪崩などの被害があるわけではありませんが、参拝途中で足をくじいたり体調不良になって動けなくなるようなトラブルが時折起こります。そのような非常時には救急隊が到着するまでその場で患者を待たせることが多いのだそうですが、奥村亭の店主奥村さんはそんな方を放ってはおけない性分。可能な限りいつも一番乗りで現場に駆けつけ初期手当を行っておられるのだそうす。今では稲荷山で緊急を要する事が起こるとすぐに奥村さんに連絡が入るほど、周辺のお社やお茶屋さんから頼られる存在になっておられます。
「この稲荷山で動けなくなって苦しんでいる人がいるなら少しでも早く助かるように、できる限りの手助けをしたいんですよね」
誰かがしないといけないことなら、自分でできることは率先して行いたいと話す奥村亭店主の奥村さん。時には動けないでいる人を少しでも早く救助隊に引き渡せるようにとおぶって山を下ることもあるのだとか。でもなかには医療知識のない自身には手に負えない心臓発作などのような深刻な症状の方もおられます。奥村さんはそんな場合に備えるべく稲荷山の各所にAEDを備え付ける計画を発案。何年も根気強く働きかけ、ようやく理解を示した町内会は伏見稲荷大社と協力し2024年冬に複数台のAEDを稲荷山に設置しました。
「安心してお参りしてもらえる稲荷山になるんやったら、誰が発案したかなんて関係ないんですよ」
そう話す奥村さん。AED設置は実現しましたが稲荷山関係者ですらそれが奥村さんのアイデアだと知る人は多くありません。奥村さんはそれよりも設置されたAEDはまだ稲荷山に数台、十分な数ではないことを懸念しておられます。AED以外にも稲荷山のためになることを一つひとつ進めていくことが守役の仕事のひとつだと考えているのだそうです。
稲荷山を訪れる参拝者たちの安全のことをはじめ各お社とその守役さんたちの発展のことにいたるまで稲荷山のことを常に考えて行動されている奥村さん。そんな奥村さんの「稲荷山への想い」があるからこそ私たちはいつも安心して参拝することができることを知りました。奥村さんと稲荷山のすべての守役さんに心から感謝したいですね。