奥村さんのお話によると今から50年ほど前にオダイさんが権太夫さんに立ち寄られたときに以下のお筆書きをくださったそうです。
~伏見稲荷山 荒神ヶ峯の田中社権太夫大神さまは 大己貴神(オオナムチノカミ)と申し上げ俗に大黒様とも申し上げております。大国主神の別名であらせられます。特に人間の禍福を掌られ世に福の神さまと申上げ万物総ての(男女・商売・取引)縁組の神さまでもあらせられます~
大己貴神(オオナムチノカミ)とはわが国で最も古い神様の一人で、別名「だいこく様」とも呼ばれており、商売繁盛、縁結びを守護する神様として有名です。 また奥村さんのお母さんのお話では、権太夫さんは「導きの神様」でもあるとご先祖から伝わっているとのことです。
長年お店に立ってお客さん同士の会話を聞いていると、自然と参拝者同士のご縁が築かれて行ったり、その方の商売が良縁に導かれ繁盛したり、それはそれは不思議なご縁で順調に成就していく様子をお母さんも奥村さんも見てきたそうです。そして、奥村さんご本人も、何十年かぶりの同窓会の日が絶対に雨になると天気予報で言われていたのに、突然晴れたなど、神様に導かれているとしか思えない奇跡が起きたこともあるのだそうです。
奥村さんのご親戚には過去に神職の方がおられたそうで、昭和30年(1950年)代にこの方を中心にお山の祭事の日付のほとんどが決まったそうです。11月13日のお火焚き祭もこの時決まったそうで現在も受け継がれています。
また奥村亭によくお越しになるオダイさんから「神様がしめ縄の位置を変えてほしいそうです」と言われれば、すぐに守役さんが直したりと神様の言葉にも耳を傾けなければならないそうで、本当に大変なお仕事だと思います。
実は稲荷山で神様のお世話をし、お茶屋さんを営むご家系は「神様の認めた家」でなければならないと決まっているそうで、そうでない場合は長続きせず、商売もうまく行かなくなるそうです。奥村家は大己貴神(オオナムチノカミ)に認められた家系だからこそ4代続いてきており、今もなお守られているのだと思います。
奥村さんご自身は自分はそんなに信心深い方ではないとおっしゃっていますが、私には“静かな信仰者”に見えています。実際のところ稲荷山にお仕えしている方のほとんどが同じスタンスで、神様を参拝者に押し付けることもなく、また手放すでもなく、程よい距離で接してくださる方が多いです。